東京大学(英語)入試問題分析
扱われている文そのものは,飛びぬけた難しさがあるわけでないものの,受験英語を超えているのが東大の英語。読み,書き,聞き,話すという英語能力の4技能全てにわたる習熟度を問われている。話す力だけはなかなか測りにくいが,なんとか自由英作でその力の一端を見ようとしている。与えられたものをこなしているだけでは,この力をバランス良く伸ばすことは難しい。自ら足りないところを適切に把握し,それを補う行動を起こす必要がある。全体に高い国語力を要求されているため,国語をしっかり勉強しておくことが必須。
1 要約・長文適語補充
(A) 要約
最終段落に主張が集中している。繰り返し同じ主張をしているので,内容はとりにくくない。前半のstaircase=「何度も上り下りしているうちに擦り減った石の階段」は,「たとえ小さな力でも長期間に渡って繰り返されるとそれが蓄えられて,大きな影響をおよぼす」というものの例。後半の主張は,「一人一人の行動が地球の環境与える影響は小さなものだが,70億も集まるとその影響は莫大なものになる」という主張。字数に比較的余裕がある。標準的。
(B) 長文適語補充
文自体は明快であり,標準的であったが,選択肢が全て動詞の原形で始まっており,文法的なヒントがない。てこずったのではないか。
1 the automation revolutionの初期,このtechnologyによって仕事が( )と人々は考えた。
工場はthis reductionの最初に起こる場所だと考えられた。
ア)下から消えていく,なくなっていく
2 機械化が進行している間に,the manual workersの一つ上の階層,すなわちthe mid-level managementの仕事は( )始めた。しかしながら,the ladder の頂点に立つboss and executiveの人々は地位を保ち続けた。
オ)従業員が直接的な指示を以前ほど必要としなくなったために消え
3 the computer revolutionによって情報処理の自動化が起こり,このことによって工場で始まったthe mid-level job lossは( )ことになった。
カ)融資の申し込みを査定するような事務仕事にまで広がる
4 U-curveの一方の頂には,最も尊敬されず給与も低いthe blue-collar jobsがあるが,もう一方の頂には高く尊敬され給与も高いthe white-collar jobがある。その後者,U-curveのもう一方のendにある仕事は( )。そこには,弁護士,生化学者,心理学者らがいる。
ク)知的,直観から生じる技能により依拠している
5 U-curveの底では物事はより単純である。そこでの仕事は( )。this kind of workをするコンピューターの能力が高まることによって,事務員や帳記係の仕事が失われつつある。
ウ)情報を集めて伝達することを伴う
2 自由英作
(A) 昨年度に続き,写真に写っている2人の会話を想像して自由に英作する問題。今年は,自動販売機を見つめている男女と,その横に座っている犬の写真だった。犬をうまく会話に組み入れることがポイント。
(B) People only see what they are prepared to see. という文から,「これについてどう考えるか」英語で書け,という問題。「人間というのは,自分が見よう(聞こう)としていることをのみ見(聞きし)て,自分が見よう(聞こう)としていないことは目に入らない(,耳に入れない)ものだ」ということわざのような内容。普段から物を考え,かつ柔軟に発想する学生に来て欲しいという大学のメッセージを感じ取れる。難。
4 文法・和訳
(A) 昨年度の並べ替えから,例年通りの文脈上,取り除かなければならない語を探す問題に戻った。東大としては標準的。修飾語を外して,文の骨組みをしっかりとること。
(1) has→is none is damagedという主語,動詞関係に合わせる
(2) the relations are that a source of happiness というSVCの関係
(3) the fundamental satisfaction for which it [the family] is capable of yielding 関係代名詞whichは他動詞yieldの目的語
(4) a very deep need for remains unfulfilled というSVCの関係
(5) toward any of other human being any other+単数名詞「他のどんな〜」
(B) 和訳。全体としては,標準的。(1) 3つのうちでは最も難しかった。caseの訳がとりにくかったと思われる。(2), (3)は標準的で特に難しくない。
(1) S can make a case for ~「〜に対しての擁護論,賛成論を唱えることができる」の受動態。
case「ある議論を支持する主張,論拠,擁護論」
on grounds of ~ の部分は修飾語。「〜を根拠にして,〜に基づいて」
either approach 全文のit can ~「成員全員に同じ給付をするapproach」と it may ~ 「助けを必要とする少数の者のみに給付するapproach」のどちらのapproachにも
(2) S guarantee all the minimum level of help というSVOOの文の受動態。all 「全ての人,成員全員」secure 「確保する,手に入れる」
(3) High levels of taxation will not make those people feel unfairly treated. という文の受動態。
5 長文読解
時間の流れがつかみにくい。語数が増えた上,最後の問題での作業に苦労した者が多かったのではないか。
(1) (7) 英文による内容一致は,選択肢がはっきりしており,選び易い。
(2) (4) 語彙問題は,文脈から推測するものであるが,やや難。
(3) 和訳は標準的だが,文全体の流れから思い切った意訳が必要。
(5) even if they [the lessons] were given by the belt or bootという表現から考える。
(6) 適語補充はb, c をセットで埋められる。残ったaは埋め易い。標準的。
(8) do this の意味することを述べる。主語のYouが親としての読者一般を指していることに留意して「身近な場所から引き離すという試練を課す」といった内容を書けばよい。
(9) 出来事の起きた順に並べる問題。文章で出てくる順番とは違っており,難。時間を表す表現と時制に着目する。電車の中での回想シーン→セーヌ川を走って戻って来た後,電車に乗る場面→息子の部屋とルームメイトに会って別れる場面の3つに分けて考えるとよい。最後にこの問題を持ってきて,知的負担に耐える力を試している。