東京大(文系数学,現代文),京都大(文系数学,現代文)入試問題分析
第1日目の主要国公立大の入試問題を解いてみた感想です。
今回の担当は,赤星です。東大(文系数学,現代文),京大(文系数学,現代文(文・理))についてです。
ほか,2日目,東大,京大(理系),その他主要難関大学の入試問題についても,当塾講師陣でリレー執筆しますので,お楽しみに。
●東京大学
数学(文科)
・第1問は何も考えずに解ける問題で驚き(おそらく,過去20年のスパンでみても最易ではないか)である。近年,このような確実に解かなければならない問題が必ず出題されており,計算ミスすら許されない。
・第2問は問題の設定さえきちんと読解できれば(このくらいの読解力は東大受験生であればふつうにあるはず),あとは確率2項間漸化式であるから,難関大志望者であれば落とせない。
・第3問は,線分の通過領域の問題。「難関文系数学」と題するような講座や,東大・一橋等を受験する生徒が多数いるような高校の数学の授業では,このようないわゆる「図形と式」における通過領域は必ず一度は通る道(のはず,当塾は少なくとも関連する問題を30問以上取り扱う)。ただし,やや計算が複雑であるのと,丁寧な記述が要求されるため,この問題は実力の差がもろに出る良問である。
・第4問は,漸化式というか,整数・帰納法的思考を試される問題。(1)と(2)は運動前の準備体操。確実に得点しなければならない。(3)の問題が本番で,整数問題でも商と余りに注目させる問題は文字の設定とそのタイミングで差がつく。もっとも,新課程においては,ユークリッドの互除法を含め,modの扱いなど,整数論的思考を重視することになっているため,入試数学特有のものではなくなってくるだろうが・・・これが今年のトリにふさわしい出題であった。
※第1問は完答必須として,全体で2~3完分をかき集められれば合格水準。
現代文
第1問:「落語の国の精神分析」(理文共通)
読みにくさはまったく感じさせず,一読した感じでは,著者の見解に対し,「なるほどね~」と思わず頷いてしまう・・・。ということは,論理構造が非常に良く練られた美しい日本語の論説であるということだが,その「論理構造」を順に追って設問が作られ,最後に著者の見解を端的にまとめて120字で終える,という問題である。
ざっくり言えば,落語と精神分析の共通点から,精神分析とはどうあるべきか,すなわち対比構造が明確である文章だが,東大現代文のエッセンス(というか現代文で鍛えるべき能力)は凝縮されている。すなわち,コンパクトに自分の言葉でまとめ上げることを要求すること,設問が論旨に関わるど真ん中を聞いてくる(些末な箇所は問いにならない)ためやや解答が重複するものの,すべての設問を通して本文の無駄のない要約が完成される。このような傾向は相も変わらずであるが,毎年その良問ぶりには感服する。
●京都大学
数学(文系)
・第1問。四次方程式だが,はじめから因数分解されており,親切な設計。丁寧に判別式と三角関数の計算をしたら終わる。これは絶対に落としてはならない。
・第2問。「三次関数の接線何本引けますか問題」。ストレートに問うてきた(絶対受験生は触れるし,10年ほど前はインターネット上で話題になった「接点t」)。(2)の面積の問題もひねりはないが,正面切って計算すると疲れる。しかし,ふつう,あのような接線と曲線で囲まれる形の求積には「定石」の計算方法(1/6公式を導く基本的変形の応用)があるので,特段迷うことはない。整関数の微積としてはいい訓練になる良問である(解法で頭を悩ますレベルではないと思われるが)。
・第3問は,一見すると空間ベクトルだが,図形を駆使するというよりは,ただ,成分が3つあるだけのベクトル計算問題という印象を受けた。特にひねりもなく,淡々とやれば解けるであろう(この問題は理系も共通)。
・第4問。(1)が解けない連中は京大を受けてはならないが,(2)で常用対数を用いて計算をすればいいだけ。
・第5問。おっと,日本語だけで5行の確率問題。骨あるかな?と思ったら,骨抜きだったように思われる。確率漸化式の演習を積んだ者であれば,それほど困らずに解けたと思われる。
※京大の数学(文系学部)は,いわゆる「入試数学」(といっても奇抜なものではない,「難関文系数学」等という講座で扱われる内容と思えばよい)について研鑽を積んだ者はそれほど困ることはない。少なくとも,かき集めても3完,そもそも2完以上は当然の前提のように思われる。過去の90年代,2000年代前半の受験生であっても楽々と解いたであろうが,それは今も昔も変わっていない(決してゆとりだとか,受験生のレベルが下がっているというわけではない)。すなわち,やたら難しい問題を解ける必要はなく,標準レベルの問題を数多く触れ,基本(易しいという意味ではない)を大事にする,という耳にたこができるほど言われていることを忠実に成し遂げることが,京大数学の基本。ただし,今年の東大の問題もそのような傾向があるように思う。
現代文(文系・理系)
第1問(エッセイ)
近年は,ガチガチの論説文というよりは,東大文系の第4問に近い,エッセイのような文章が素材となっており,今年もエッセイであった。ただ,小説に近い要素(問3など)もある(といっても現代文の基本的な解法に揺らぎはないから,基本的な読解力,語彙力,論理把握能力があればよい)。
京大の現代文は,本文の語句を拾ってとりあえず何か書いておけばよいだろうという安易な受験生は容赦なく切り捨てられる。出題される文章自体はほとんど無駄の無いもので,本文の内容に準じて自らの理解を補った自分自身の言葉で敷衍した解答を書かなければならないが,今年もその傾向は踏襲される。設問別に簡単にみると,問3(植物の感情)の内容把握は易しい。該当箇所をまとめるだけ。問4(だまってドアを閉めた)については,小説の問題の解き方に似ている。比喩表現の中身を的確に把握し,それを自ら解答にまとめ上げる必要があるため,過去問等でそのスキルを磨かなければ,対応できない。また,最後の第5問(理系は第4問)は,本文全体を俯瞰した上で6行にまとめることとなるが,答案構成から文章化のしっかりとした訓練が必要である。
第2問(文系)
渡辺京二氏は,入試問題でも著名な文筆家であるが,実は某予備校講師も努められる(!,某予備校で予備校生時代に習ったことが・・・),業界では著名な人物。もちろん,近代(日本)社会における民衆運動と急速な西欧化の関係を鋭く分析される彼の論評は,和辻哲郎賞を受賞するなど,文筆家としても一目置かれる人物である・・・とまあ,入試とはあまり関係ないところはさておくとして・・・
日本の近代に関する随筆・評論であるが,受験レベルの日本史の知識がなくとも,「常識」があれば中身が頭に入ってこないなどということはない。
ただし,引用が多用され,まとめにくさがあったか(ポイントを外すようなことはないと思うが,引用で何が言われているのかを端的にまとめるところは京大らしい難しさがあろう)。
第2問(理系)
第2問は,例年通り,比較的平易である(内容的にも目新しさはないし,エッセー調であり,読みにくさも感じなかった)。解答すべきポイントを外すことはないので,あとは答案構成からまとめあげる訓練をしておけばよい。理系諸君は,ここでしっかり点をとることだ(むしろ,第1問でどう点を取るかが合否を分ける。第2問で苦労する者は合格はおぼつかない)。