2018年度 東京大学入試問題分析

本年は,東大受験者は当塾にはいませんでしたが,東大入試の問題の分析を本年も行いました。

東大の入試問題はおそらく,私は日本で有数の良問揃いと考えています。西荻塾は,東大受験者に限らず,その良問を最大限に利用して各学年,様々な志望者のために改題して利用したりすることがあります(春期講習の高3現代文の授業では,東大現代文を題材に徹底して読解のイロハを講義予定です)。「難しい」とか「奇問」とかそうではなくて,全うに知性を努力で磨き上げた者が選ばれる試験としては最高の問題。今年も敬意と最大限の賛辞をもってして,分析講評をしたいと思います。

では,今年の本題です。

【文系数学】

「頻出の確率が出題されなかった。」ということが衝撃なのか?随所でそのような話を聞く。しかし,「確率が出題されなかった,だから何よ?そんな直前予想とかに期待するのか?」という・・・。

いや,全うに演習に取り組んできたか,それが素直に問われる4問セットだったのではないか。従って,全体として易化ともいいうるかもしれないが,いや,私は逆に差がつくとみた。「文系数学」と言われる西荻塾の講座では,担当者が大学在学中からストックした国公立型の良問1000題近くが用意されており,国公立志望者の上位層は,添削を通じて本気でそれと戦っていく。そのデータベース化したものと今年は類型的に一致を見たが,要はそのような学習経験を積んできた者はしっかりと点が取れるであろう(数学を教える身として非常に解いていて楽しかった。)

とはいえ,勘違いをしてはならないが,1000題近くを数ヶ月でこなせるものでは断じてなく,こつこつ自ら目標を見据え努力を積み重ねなければその領域には達せない。東大受験生よ,「努力は裏切らない」その言葉の重みをかみしめて備えよ。

各設問ごとに簡単なコメントをすれば,《設問1》は微分と領域の融合問題で,論理的には難しくないが,「図より」という言葉をきちんと使えないと,記述で苦労し,ほとんど部分点がつかず,大けがをする可能性がある。たまに,数式のみ,計算ぎっちりという答案を目にして辟易することがあるが,人に伝える手法として「図より,」「正確な図の運用」そのような答案作成能力が厳しく問われる問題である。

《設問2》の序盤の論理は,どちらかといえば確率と数列の融合問題で触れたことがある者もおおいと思う。しかし,後半の緻密な因数による分析は整数問題による特訓を積まないと答えは分かるが点にならない,ということもあるだろう。解答例等を利用していかに答案作成能力を鍛えるかは常に留意して学習されたい。

《設問3》もっとも素直な出題はこれ。これは是非完答したい一問であろう。増減の有無や,極値の存在という題意も素直で迷うことはあまりない。しかし,図示においては,導出した条件式を正確に図示しなければならず(境界線どうしが接するそのとき,を正確に把握しないと),ここも経験差がものをいう。

《設問4》ベクトルの問題ではあるが,ベクトルの解析的側面の強い問題。ベクトルの問題集では後半にお目見えする分野だ。媒介変数をうまく利用して座標平面への投影を行う作業が求められている。難関文系数学においては,座標平面とベクトルの「行き来」(理系においてはさらに複素数平面への行き来も含まれる)は臨機応変に行うスキルが要求されるが,ズバリそれが問われた。

【国語】

第二問 古文
昨年度より問題文の文章量は増えたものの,全体として平易な内容で,全体内容の把握に苦労することはない。出題箇所も大きく解釈に困るような部分はなく,また解答根拠も傍線部前後に明快に求める問いがほとんどのため,例年通り基本的な知識を正確に運用することが必須である。

(一)傍線部アは,基本的な敬語と,訳出語の助詞位置に注意できれば問題ない。傍線部イは「言葉」が何を指すの
か,傍線部直後から明確に捉える。傍線部エは「たより」の訳出に要注意。前後のやりとりに注目して定める。

(二)傍線部直前で決まる。解釈はたやすい。

(三)やはり傍線部直前の師直の発言で決まる。易しい指示語の問題。

(四)「つま」をどう訳出するのか。語彙として把握していれば問題ない。「唐衣…」を思い浮かべることができればさらによい。

(五)「ばかり」の語を見落とさず,直後の師直の様子の把握から解答できる。

全体として(一)エ以外は基本的な知識で充分対応できる。もちろん,その上で解答としてまとめあげる力が求められているので,出力する練習を十二分に積まなければ求められる得点にはならない。但し,余談となるが,このトレーニングは決して特別なものではなく,上位の私大を志望する者であれば避けては通れない。

第三問 漢文
問題文の文章量も増えた上に,古文とは打って変わって,問題文後半の読み取りと解答への出力はそれなりの実力が求められているように感じる。リード文を解釈の軸に据え,問いの解答の枠組みを予測するとよいだろう。

(一)傍線部aは読みで解決。傍線部bは前後の例示を踏まえ,「爵」の示す意味を読み取る。傍線部cは直前の文との対比を確認。何が「已む」のかそれで分かる。

(二)解釈に困る字はない。反語であることを踏まえて解答するのみ。

(三)今年度最も対応しにくい問いではないか。先に述べたとおり,リード文を踏まえ,直前の「先王之法」が何を示すかを判断し,「待」の意味を特定することになろう。

(四)傍線直前部の内容が把握しにくく迷うが,(三)同様にリード文の内容を念頭に,まずその状況において「患己之不勉」が示す意味をイメージする(特に,『人』でなく『己』とされている点がポイント)。ここで傍線部に立ち返り,「先之」をきちんと解釈に反映きれば,解答に持ち込むことはできる。主張は比較的シンプルであるという発想を持っておくとよいのではないか。